研究所にて
作:ソンビ

ゆっくりと目を開けると、そこは何かの入れ物の中だった。
手前はガラスになっている様で、外の景色が広がっていた。何故こんな所に居るのだろうと疑問に感じたが、外に出たいが一心でガラスを叩いてみる。
鈍い音がするだけで最初はビクともしなかったが、しばらくするとピーっとチープな音が響いた。
次の瞬間、目の前のガラスが持ち上がり、外へ出る事が出来た。
その部屋の中には機械が色々あったが誰もいなかった。今の状況が理解出来ないので、誰かはなしが出来る人が居れば良いのだが……
部屋の中を色々見て周っていると、突然ドアが開き、そこから3人程の研究員らしき人達が談話しながら入ってくる。
ふと視線が合ったのでこんにちわと頭を下げると、3人はピクリと止まった様に動かなくなった。
少しの沈黙の後、3人は突然泣き出してこちらに抱きついて来た。
「し、所長……!! 目覚めてくれて良かった……!!」
「しょちょぉぅぉぉぉぉぉ!!」
「所長ッッ!復 活ッッ!」
皆泣きながら抱きしめてくる。
「ぐ、ぐるじい……」
一人の背中をバンバンと叩くと、察してくれたのかそそくさと手を離し3人は正面に並んだ。
「皆、所長が目覚めるのを待っておりました」
「最善を尽くしてました」
「寝る子は育ちます」
3人が思い思いに喋る。
「さっきから疑問に思っていたんだけど、所長ってのは俺の事なの?」
「はい、私たちの所長です」
「所長は所長です」
「わたしが町長です」
どうも思い出せない。自分の名前はおろか、年齢や出身地等、全て判らないのである。
「ごめん、記憶が混乱してて……何も判らない」
こんな自分を見て3人は、これまでの経緯を話した。

「――――つまり事故で無くなった俺は、複製人形に精神を転移させた為に、2年間眠っていたのか……」
経緯はと言うと、2年前に自分はここの研究所に戻る時に、信号を無視したトラックに轢かれた。
その後病院に搬送されたが、間もなく死亡。だがこの研究所の3人は諦めきれず、試験段階だった
『複製体に精神転移させる手術』をこの俺に施す。結果、成功はしたのだが……

「何で元の男の身体じゃなくて、こんな小さい女の子の身体なの?」
「それにはちゃんと理由が御座いまして」
一人が手振りで説明する。
「もうこの研究所に所長を運んだ時には、精神が弱ってまして」
「元の大きい身体だと、身体を維持し続ける力が所長の精神には残されていなかったのです」
「なので一回り小さい、そして男よりも生命維持に必要なエネルギーが少なくて済むこの身体をやむなく使ったのです」
「元の身体に戻れる手立ては?」
「一度精神を身体から離す為には、身体と意識、精神が分離しそうな時に無理やり引っぺがさないといけないんです」
「けれど、一度所長の身体から精神を引き剥がした時には、もう死後数時間経って居た為所長の精神はボロボロだったのです」
「元の身体に戻す為に無理やり引き剥がすと、ボロボロの精神が耐えられなくなって、死んでしまうでしょう」
「……」
元の身体の事は全く覚えていないが、何か物言えぬ悲しさがあった。
「まぁまぁ所長、身体が変わっても所長は所長です。僕らも変わらず接して行くので元気出してください」
他の2人もうんうんと頷く。
「うん、ありがとう3人共、これからもよろしく」
「任せてください」
「こちらこそよろしくです所長」
「そんな所長も実にいいです、萌えます」
ゾゾゾと鳥肌が立った。

暫くして3人は、こちらへ来てと手招きして入ってきたドアに戻っていった。ついて行くと、一つの部屋に辿りついた。
ドアを開くと、ほのかに煙草の臭いがする部屋がそこにはあった。
中に入って色々見てみると、デスクの上に一つの写真立てがあった。
「これは……」
写真には、研究員の3人と、笑顔の男が写っていた。
「その満面の笑みを浮かべてるのが所長ですよ」
これが自分なのかと思ったと同時に、元の自分が判らない自分に悲しくなった。
「今まではカプセルの中でしたが、今日からはここで寝てください」
「ここで寝るのか」
「もし煙草臭いのが嫌ならコレ使ってください」
と言って消臭剤を渡してきた。
「いや、別に臭いは気にならないからいいけど」
「じゃあ所長はのんびりしててください、自分達はやる事があるので」
「あるので」
「あると思います」
3人はそそくさと出て行った。
「……ここが自分の使ってた部屋かぁ」
少し落ち着くのは、自分の名残があるからだろうか。


「起きてください所長」
その声に起こされると、横に3人の内の1人の顔があった。
「寝てたのか、今何時?」
「18時です、夜飯の時間です」
自分が何時に寝たかは定かでは無いが、この熟睡ぷりは結構な時間寝ていた様だ。
「夜飯って、誰が作ってくれたの?」
自分の問いかけを無視して、ついて来てくださいと手を引っ張ってくる。
2つ3つ廊下を曲がってドアを開けると、質素ながらも美味しそうな料理が並んでいた。
「普通は皆、1人ずつ交替で泊まりをするだけなので料理なんて作らないのですが」
「所長が居るので、皆で腕をふるって作りました。遠慮せずに食べてください」
言われるがままに席に座り、皆で合掌して料理を口に運ぶ。
「おいしい」
予想以上のおいしさだった。
「そりゃあ、所長の為に作ったんだからおいしいですよ」
「美味しくないハズがないです」
「うんめぇだろ〜」
皆がコレも食べてください、コレもいいですよと自分の皿に乗っけてくる。
そんな光景が凄く嬉しくて、いつの間にか泣いていた。
それにつられてか、3人も一緒に泣きながら笑っていた。所長が目覚めてくれた、本当に嬉しいと。


「でも、こんなに食べられないよ」
「昔の所長なら、ペロっとたいらげましたよ」
「今の身体は小さいから、どう考えたって食べられないって」
こんな所で、元の身体との差異を感じてしまうのだった。

 


つづく

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