桃色カオス〜後編〜
作:シクノレ

  「田中の奴……一体何を手に入れたんだろうな……」
そう呟きながら、江川信彦は友人の家へ向かった。
昨日の晩(というか深夜)に中学時代からの悪友、田中利明が信彦の携帯に電話をかけてきた。
これから寝るというのに、絶妙なタイミングでの電話だった。
信彦が苛立ちつつ電話を取ると、利明は大きな声で「信彦ッ! スゲーの手に入れた!」と騒いでいた。
苛々していたため、「ハイハイ。いーじゃん、いーじゃん、スゲーじゃん」と適当に答え、電話を切った。
案の定、次の日(つまり今日)、朝から他のクラスから信彦の教室まで来て、「とにかくスゲーから放課後見に来いよ」とのことだった。
ビックリするような面子を集めているらしい。
あまり何かを褒めようとしない利明が大騒ぎする程すごい代物なら期待せざるを得ないだろう。
それに、利明の言う「ビックリするような面子」も気になる。


「お邪魔しまーす」
入りなれた利明の家に入ると、すぐに利明の母が部屋まで連れて行ってくれた。
見なれた階段を上り、利明の部屋のドアを開ける。
「遅いぞ信彦。もうみんな来てるぜ」
「みんなって……」
信彦と利明を含めて計六人。
ビックリするような面子というのは本当なようで、信彦は目を丸くして驚いた。
まず一人目。
やたらと硬い絵にかいたような委員長、沢原由香。
眼鏡と長めの三つ編みが彼女の特徴である。
試験が近いので真面目な彼女を誘うのは非常に困難である。
続いて二人目。
部活一筋大宮謙斗。
筋肉質な身体つきと日に焼けた黒い肌が特徴で、野球部のエースである。
部活に忙しいため、やはり誘うのは困難である。
三人目。
天然巨乳美少女、佐野真里菜。
背中を覆う程に伸びたしなやかな茶髪(地毛らしい)が特徴である。
非常に天然なため、誘うのは困難?である。
そして四人目。
活発元気少女、関口智子。
ショートカットの髪が特徴で、常に女子グループの中心にいる。
非常に活発で、案外誘うのは簡単かと思いきや、他の友人との付き合いがあるため、誘うのは困難である。
そんな四人が利明の部屋に集まっているという事実は、信彦には信じ難かった。
「試験前に私を呼び出したんだから、さぞすごいものを見せてくれるのよね?」
多少嫌味っぽく由香が言うと、利明はニヤリと笑った。
「沢原さんのご期待に添えるよう、全力を尽くすぜ」
「すごいものって〜なんなんですか〜?」
独特の口調でゆっくりと話す真里菜に、利明はグッと親指を突き立てた。
「とにかくスゲーから!」
「俺が部活をサボってまで来たんだ。楽しませてくれよ」
冗談っぽく謙斗が笑いながら言うと、利明も一緒に笑った。
「おう、任せとけ」
「ねえねえ、これ終わったらみんなで買い物行こうよ買い物っ!」
ニコニコと笑いながら言う智子に、利明は「行く気になれるならね」と意味深な発言をした。
机の上には人数分のコップが並べてあり、その中心にはピンク色の液体?が入ったボトルが置かれていた。
「利明、そろそろ見せてくれても良いんじゃないか?」
信彦の言葉に、その場にいた全員が頷く。
「ああ、それだよ」
と、利明が指さしたのは、ピンク色の液体?の入ったボトルだった。
「……ただのジュースじゃないの?」
由香が問うと、利明は首を横に振った。
「いいや、ただのジュースじゃないぜ」
そう言いながら利明はコップにピンク色の液体?を注ぎ始める。
五人分でボトルが空になり、利明は新しいボトルを取り出すと、自分のコップに注いだ。
「ジュースというより、ゼリーに近いな」
謙斗は興味深げにコップを揺らし、中のゼリー?が震えるのを眺めている。
「ゼリージュースっていうんだよ」
そう言って利明がニヤリと笑う。
「じゃー飲んでみよー!」
智子はコップを手に取ると、勢いよくゼリージュースを飲み始めた。
「結構うまいよ!」
智子に促され、信彦達も次々にゼリージュースを口にする。
「利明、飲まないのか?」
「勿論飲むぜ。みんなの感想を聞いてからな」
異変は、すぐに起こった。
突如、智子が苦しみ始めたのだ。
「顔が……熱い……!」
自分の顔を押さえながら呻き始めている。
「おい、だいじょ――――」
言いかけ、信彦は自分にも異変が起きていることに気づいた。
智子の訴えと同じ。
顔が熱いのだ。
見れば残りの三人も苦しみ始めている。
「利明……お前……」
おまけに段々眠くなってくる。
睡眠薬を仕込まれていたらしい。
「お休み。次にみんなが目覚める時には本当のすごいもの見せてやるよ」


「全員、眠ったか」
利明はボソリと呟くと、智子に近付いてその顔を剥ぎ取り、智子の前に置いた。
剥ぎ取りは昨日の晩に試しているので簡単である。
「さてと」
利明は自分のコップの中のゼリージュースを一気に飲み干した。
徐々に顔が熱くなり、剥がせる状態になってくる。
「よっと」
利明は素早く自分の顔を剥ぎ取ると、智子の身体へくっ付けた。
利明の顔に智子の身体……。
何とも奇妙である。
「おお、俺がセーラー服を着ている!!」
利明の顔をした智子は嬉しそうに回転し、スカートをひらひらさせてその感覚を楽しんだ。
「よし、次行ってみよう」
智子の身体のまま利明は、残りの四人の顔も剥ぎ取り、それぞれ別の身体へくっ付けた。
図にすると↓のようになる。

由香→謙斗
信彦→真里菜
真里菜→利明
謙斗→由香
智子→信彦
利明→智子

「このまましばらく待てば目が覚めるだろう」
智子の声で、利明は言うとその場に座り込んで彼らが目覚めるのを待った。


「ん……」
信彦が目を覚まし、最初に感じたのは頬をくすぐる何かだった。
そっと触れてみると、それが髪の毛であることがわかった。
「俺の髪、こんなに長かったっけ……」
そう言って、自分の喉を押さえた。
声がおかしい。
まるで少女のように高い声になっている。
慌てて身体を起こすと、長い髪が揺れた。
「胸が……重い……!?」
身体を見下ろすと、自分の身体には有り得ない、女性特有の乳房が二つついていた。
おまけにその乳房が押し上げているのはセーラー服の胸元である。
「ど、どうなって……」
言いながら自分の?胸を乱暴に掴むと、言いようのない快感に襲われる。
「あんっ!」
無意識に、喘ぎ声を出してしまう。
胸も、胸を掴む小さな手も、プリーツスカートから伸びる綺麗な足も、全てが信彦の物ではなかった。
「俺、一体どうなって……」
「いやぁぁぁぁぁぁッッ!!」
信彦が言い終わる前に、近くで野太い悲鳴が聞こえた。
「なんなのこれ!? 私の腕、何でこんなに太いの!? それに髪も、なんでこんなに短く……!?」
信彦が悲鳴の聞こえた方を見ると、そこにいたのは謙斗……ではなかった。
由香の顔をした謙斗……。
あの眼鏡の似合う少しキツそうだが綺麗な顔は間違いなく由香の顔だ。
なのに、身体や髪は謙斗の物である。
アンバランスにも程がある。
「やだ……声もこんなに太く……!!」
喉を押さえ、泣きそうな顔をする由香の顔をした謙斗。
「あたし〜寝ちゃってたんですか〜?」
利明の声だ。
「おい、利明! おま……え?」
利明じゃない。
身体は確かに利明だが、顔は真里菜だ。
「あ〜江川くん〜どうしちゃったんですかその身体〜」
江川?
彼女には今の信彦が江川信彦に見えるのだろうか?
「なんだか〜顔以外あたしとそっくりですね〜」
顔……以外?
自分の姿を確認するため、必死に鏡を探す。
「はい、鏡」
誰かから鏡を手渡される。
声からして智子だろう。
「ありがとうせきぐ……ち!?」
智子じゃない。
利明だ。
智子の身体をしているが、その顔は利明だ。
「利明……か?」
「利明っちゃあ利明だよ。佐野真里菜ちゃん」
やはりそうか。
今の自分の身体は佐野真里菜の物なのか。
恐らく、これまでのことを見るに、鏡を見ると非常に気持ちの悪い物を見ることになるだろう。
それでも信彦は、意を決して手渡された鏡を除いた。
「顔だけ……俺!?」
キモい。
素直にキモい。
真里菜の巨乳ボディに信彦の顔がついている。
「俺の身体が……貧弱貧弱ゥに……?」
少し遅めに目覚めた謙斗(顔以外は由香)が自分の身体を見下ろして呟く。
折角鍛え上げた身体が華奢な由香の身体になってしまったのはさぞ悲しいだろう。
その身体では今まで通り野球を続けることは恐らく不可能である。
三つ編みの謙斗がキモ過ぎるのは内緒。
「わ、私……男子に……」
最後は信彦の身体になった智子であった。
「おい、田中!! どういうことだ!?」
三つ編みを振り乱しながら華奢な身体で利明(とは言っても身体は智子)を謙斗が揺さぶる。
「どういうことって……こういうことさ。どうだ?スゲーだろ」
確かにスゲー。
が、一刻も早く元に戻りたい。
「早く戻してよ! 嫌よこんな身体っ!!」
野太い謙斗の声で女言葉はかなりキツい。
「案ずるな諸君。ゼリージュースをもう一度飲んで正しく顔を張りなおせば……」
そう言って利明はゼリージュースのボトルの蓋を開けた。
「それを渡しなさいっ!」
「俺にも寄こせッ!」
由香と謙斗に同時に跳びかかられ、バランスを崩した利明は、蓋が開いたままのゼリージュースを、床に落とした。
「アッー!」
ゼリージュースは床に流れ、とても飲めた物ではなくなった。
床に広がったゼリージュースをすするのはぶっちゃけ無理だ。
適量飲めるかわからないし汚い。
「ど、どうすんのよ……。もしかしなくても私達……」
ブルブルと震えながら由香が床に流れたゼリージュースを見る。
「一生元に……戻れない?」
信彦が呟くと同時に、利明を含む全員の顔が青ざめた。

 

それぞれのその後。

田中利明 関口智子として普通に生活。その適応力にシビれる! あこがれるゥ!
佐野真里菜 利明の姿であの性格と口調のままなのでオカマ系キモキャラとして定着。
大宮謙斗 由香の姿で野球を始めようとするが、断念。諦めきれずにマネージャーとして入部。
関口智子 信彦として生活。本人より明るいので友達は多いそうな……。何気に順応しています。
沢原由香 女を捨てきれず、日々女装に明け暮れ、最近はオカマバーでバイトし始めたらしい。ホルモンをやっているとの噂も……。人類の夜明けだわこりゃ。
江川信彦 姿は他から見れば真里菜のままなので男子にモテモテだとか。最近は普通に女の子しているらしい。恋! そのすてきな好奇心が信彦を行動させたッ!

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