元に戻りたい
作:ソンビ

物心ついた時から、女に生まれればよかったと思っていた。
幼馴染の女の子が綺麗に着飾っているのを見て、凄く羨ましかった。
自分もあぁいう風な服を着たいと言うと、母親は怪訝な顔をして言うのだ。「男の子だから駄目」と。
そう言われた時、男の自分が嫌いになった。
中1になった頃、貯金していたお小遣いをはたいて、女性用の服一式を買った。
家に帰ってこっそりと着てみるが、男の自分が女服を着ても似合うはずはなかった。
男の自分が、もっと嫌いになった。


17歳の夜、いつもと同じ様に床に入った次の日だった。
朝の日差しに照らされ目覚めると、いつもとは違う部屋に居た。
少女趣味なポスターに、整理整頓された本棚。キレイに掃除のされた机があった。
次に自分の身体に違和感を覚えた。いつもの調子じゃないのだ。
身体に目を向けると、身体の形が違っていた。
胸の辺りに、大きな膨らみがあり、手も細く全体的に丸い身体をしていた。
この光景を見て瞬時に理解した。女になれたんだと。
自然と涙がこぼれた。今まで叶うはずの無いと思っていた夢が遂に現実となったのだ。
暫くは女になった自分の身体を眺め、その事実を噛み締めていた。
突然ガチャリとドアが開いた。そこには男だった時の自分が、息を切らして立っていた。
男だった時の自分が、口を開いた。
「はる君……?」
はる君とは自分のあだ名だった。
そこでハっとした。このあだ名で呼ぶのは、幼馴染だけなのだ。
二人で状況を説明しあうと、自分と幼馴染の身体が入れ替わったという事がわかった。
鏡を見せさせて貰うと、確かに自分の姿は、今までによく遊んできた幼馴染そのものだった。
突然自分の姿をした幼馴染が泣き出した。
「私のせいだ……私が男になれたらなんて思ってたから……」
ソレを聞いて、幼馴染と自分は同じ様な悩みを持っていたのかと驚いた。
「自分も、女になりたいってずっと思ってたんだよ。もしかしたら、願いが叶ったのかもね」
そう伝えると、彼女はきょとんとした顔をして、またわっと泣きだしてこちらにしがみついてきた。
笑い泣きしながら、ずっと二人で抱き合った。
お互いが、同じ境遇で、同じ思いをして生きてきた事を知った。
入れ替わった事は永遠の秘密にしようと誓った。と同時に、これからはずっと一緒に生きていこうと約束した。

だがそれから暫く日にちが経った頃に、だんだん彼女の元気が無くなっていった。
交友関係の変化に耐えられなくなって、ずっと一人で居るらしい。
彼女はぶつぶつと呟いていた。『元に戻りたい』と……。
自分は上手くやっていけているが、彼女には少しキツいみたいだった。
そんな彼女を見て、いたたまれなくなった。
次の瞬間、急に彼女が倒れた。それに合わせて自分も意識が飛んだ。

気がつくと、電柱の上に居た。
何故自分はこんな所に居るのだろう。
降りようにも高すぎて降りれないし、どうすれば……。
ふと、家の窓に、二人の人物が居るのが見えた。よく見るとその二人は幼馴染と自分の姿だった。
おーいと叫ぶと、なんとも甲高い鳥の声が喉をついた。
自分の身体を見ると、カラスになっていた。
彼女が元に戻りたいと思ってしまったから元の身体に精神が戻って、幼馴染の身体に居た自分は追い出されてしまったのだろう。
その時、近くに偶然居たカラスに精神が移ってしまったと……。
元の姿に戻りたいと、その時切に願った。カラスよりは男の身体の方が幾分かマシである。
けれど、願っても元の身体には戻らなかった。
自分の身体にカラスの精神が入っているのだとしたら、カラスが少しでも元の身体に戻りたいと思わないと、戻れないのだろうか。
そう仮説を立ててからは、彼女の家の前で、延々と鳴き続けた。
20も日が経ったぐらいで、無駄だとわかって諦めた。

カラスの鳴き声が煩くて目を覚ますと目の前に、はる君が倒れていた。
ふと自分の身体に目をやると、元の身体に戻れていた。
やっぱり自分の身体が一番だよね……。
でも、はる君には申し訳ないな……はる君が目を覚ましたら謝らないと。

 


この町には、妙にらしくないカラスが居るという。いつも一匹で行動しているそのカラスに出会ったら、餌をあげてみるといい。
人間みたいに何度もおじぎをして、低位置の電柱の上に戻っていくらしい。
そのカラスは、たまに悲しそうな眼をするという。その目線の先には、一つの家があった。
そこに住んでいた普通の学生だった少年は、突然奇声を上げる様になったという。
手をばたつかせ窓から飛び降りようとした所を両親に止められ、そのまま精神病院送りになったそうだ。

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