二人の日記
作:シクノレ

桜井祥子
十月五日 月曜日

もう嫌、こんな身体。
どうして女に生まれてしまったのかと常々思う。
今日、私の会社で無能な男が昇進した。
私の方が先輩で、その上優秀だと言うのに……。
いつまで経っても私は下働きのままで、私より無能な男ばかりが昇進していく。

気に入らない。

男に生まれた方が絶対に私は幸せだったハズ。
大好きだった野球も私が「女」だと言う理由だけで中学に上がる時に両親に辞めさせられた。
本当は今でも続けていたかったのに……。
野球と言えば、隣の部屋の武藤君が高校の野球部だったっけ。
羨ましいな。

 

武藤喜一郎
十月五日 月曜日

今日の練習は一段と厳しかった。
日曜の練習試合で惨敗したのが原因だと思う。
と言っても俺はまだ球拾いなんだけどね……。
早く上手くなって、レギュラーを取りたい。
ヒーローになれなくても良いからとにかく試合に出たいなぁ……。


そういえば今日、隣の桜井さんを見た。
胸が大きくてスタイルが良くて大人の女性って感じだ。
超好み。
お隣さんだし仲良くなりたいなぁ……。

 

桜井祥子
十月六日 火曜日
最悪。
昨日昇進したせいで上司になったアイツに怒鳴られた。
「コピーが遅い!」って私のせいじゃないじゃない。
どう考えても機械が古いせいじゃない。
私はテキパキやっている。
それにアイツ、数日前までは「桜井さん桜井さん」っていつも私を頼っていたくせに、いざ昇進すると手の平返したように態度を変えやがった。
ムカついてしょうがない。
一発ぶん殴ってやりたいけど、私の腕力じゃ無理だ。


今日、隣の武藤君と初めて会話した。
とは言っても挨拶だけなんだけど……。
爽やかで、スポーツマンって感じの少年だった。
私も男に生まれていたらあんな風になれたのだろうか……。

 

武藤喜一郎
十月六日 火曜日
親友の友一に洋モノのエロ本をもらった。
友一は「最高の一品だぜ!」って言ってたけど俺的には微妙だ。
やっぱり日本人の方が良いし、金髪は好みじゃない。
でも一応もらっておく。


そういえば今日、勇気を出して桜井さんに挨拶してみた。
すると、桜井さんは笑顔で「こんにちは」って返してくれた。
すごく嬉しい。
このまま仲良くなれたらいいな。

 

桜井祥子
十月七日 水曜日
昨日のことがムカついて仕方なくて、今日は会社を休んだ。
代わりに日帰りで実家に戻ってみた。
昨日のことを話すと、母は私を慰めてくれた。
男に生まれたかったことはもう話しているから、自分の気持ちを包み隠さず話すことが出来た。
母は「ごめんね」と繰り返していた。
何だか申し訳ない。
明日はちゃんと会社に行こう。

 


武藤喜一郎
十月七日 水曜日
今日は一年生もノックを受けさせてもらえた。
テストみたいなもので、今日のノックで優秀だった一年生はベンチ入りさせてもらえるらしい。
場合によっては試合に出してもらえるかも知れない。
みんな意気込んでいたけど、キャプテンはレギュラー陣に打つのと同じ勢いで打ってくるものだから、大抵の人は上手く出来ていなかった。
結局、ベンチ入り出来たのは三人だけだったんだけど……。
なんと、その三人の中に俺が入っている!
すごく嬉しかった。
これからももっと頑張って、いつかレギュラーになってやるぞ!

 

桜井祥子
十月八日 木曜日
今日は妙なことがあった。
帰り道、変な男に出会った。
まだ寒くもないのにコートを着込んで、深く帽子を被ったサングラスの男。
最初は変質者かと思ったけど違うみたい。
男は私に「何か悩み事があるんじゃないですか?」と尋ねてきた。
このまま変な場所に連れていかれて変な物を買わされるのかと思ったけど、辺りを見回しても仲間らしきものは見当たらないし、車もない。
男は私の心を見透かすように「心配しないで下さい。怪しい者ではありますが、決して貴女に危害を加えるようなことはしませんし、これから私が売る物を買うかどうかは貴女次第です」と言った。
やっぱり何か売る気なんだ……。
でも不思議とその男に惹かれて、話だけでも聞いてみようと思った。
とりあえず悩みを話してくれと言われたから話した。
私は男に生まれたかったと。
すると、男は興味深そうに頷き、「勿体ない。こんなにお美しいのに」と私の頬に触れた。
気味が悪かったけど、逃げようとは思わなかった。
男は「ですが、男性になりたいというのが貴女の望みなら、叶えて差し上げましょう……」と言うと、ポケットから何かを取り出した。
取り出されたのは二本の試験管に入った赤と青の液体だった。
「赤の方に貴女の身体の一部を、青の方に貴女がなりたい男性の身体の一部を溶かし、青い方を貴女が飲み、青い方を男性に飲ませて下さい」と男は言った。
私が「それでどうなるの?」と聞くと、男は「貴女の望みが叶います」と答えた。
非常に胡散臭いが、試してみたくなった。
値段を聞くと、セットで二千円だと言った。
以外に安い。
二千円くらいなら……と騙されたつもりで買ってみたけど……。
使い方は明日考えよう。


そういえば今日も武藤君に会った。
挨拶だけなんだけど、武藤君はいつも嬉しそうだ。
まさかとは思うけど私に気があるのでは……?
もしそうならそれを利用してあの液体を…………

 

武藤喜一郎
十月八日 木曜日
授業中に寝ていたせいで課題を増やされてしまった。
それも大嫌いな英語だ。
明日までに提出だから急いでやらないと……。


今日も桜井さんに挨拶した。
中々挨拶から進展しないなぁ……。

 

桜井祥子
十月九日 金曜日
今日偶然、武藤君の物らしき帽子を拾った。
通学中に落としたみたいだった。
武藤喜一郎と名前が書いてあるから彼の物で間違いないだろう。
髪の毛でも入っていないかと入念に調べてみると、すごく短いけど武藤君の坊主頭の髪の毛が一本入っていた。
これで武藤君の身体の一部が手に入った。
この時点でターゲットは武藤君に決定した。
早速青い液体に入れてみると、短い髪の毛はすぐに液体に溶けた。
次に、私の髪の毛を一本抜いて赤い液体に入れた。
勿論すぐに溶けた。
一応準備は整った。
男が言うには、「液体には味がないので、相手に飲ませる際には何かに混ぜて飲ませても問題ないですよ」とのこと。
適当に何か作って明日にでも武藤君に渡そう。

 

武藤喜一郎
十月九日 金曜日
今朝、どこかに帽子を落としてしまった。
鞄を開けたまま通学してしまっていたので、そこから帽子が落ちてしまったのだろう。
名前を書いているから誰かが拾ってくれていれば返ってくるとは思うが……。
一応練習の時は部室で余っていたやつを借りた。
出来れば桜井さんに拾ってもらいたいなぁ……。
明日は朝から練習なので早く起きないと……。


今日もいつも通り帰りに桜井さんに会えた。
桜井さんは俺に「練習お疲れ様」って声をかけてくれた。
何だかすごく嬉しい。
明日も頑張ろう!

 

桜井祥子
十月十日 土曜日
帽子を返すついでに昨日の夜に適当に作った野菜ジュースに赤い液体を混ぜて武藤君に渡してみた。
武藤君は嬉しそうに受け取ると「ありがとうございます!」といってその場で飲んでくれた。
おいしかったと言ってくれたので、うまく出来ていたようだ。
その後、私も青い液体を飲んだ。
ホントに味がない。
どうなるのか楽しみだ……。

 

武藤喜一郎
十月十日 土曜日
最高だ!
帽子は返って来たし、おまけに桜井さんの手作り野菜ジュースをもらった!!
嬉しくてついその場で飲んじゃったけど、すごくおいしかった!
これだけで明日も頑張れる気がする。
明日は練習試合、一応ベンチに入れてるみたいだからチャンスがあるかも知れない。
頑張るぞ!

 

桜井祥子
十月十一日 日曜日
あの液体は本物だ。
明らかに私の身体は変化している。
いつも履いているスカートのヒップがぶかぶかになっている。
驚いて見てみると、私のヒップが引き締まって筋肉質になっている。
まるで男性。
これから少しずつ変化していくのかと思うと楽しみで仕方がない。

 

武藤喜一郎
十月十一日 日曜日
今日の練習試合、出番なし。
まあそう簡単に出番があるとも思っていなかったんだけど……。
それよりもなんだかユニフォームのケツがキツい。
今までピッタリだったのに……。
無理矢理押し込んでやっと切ることが出来た。
なんでだろう。
太ったかなぁ……。
もっと運動しないと。

 

桜井祥子
十月十二日 月曜日
今度はウェストが変わった。
くびれがなくなって、代わりにかなりの筋肉がついた。
腹筋が割れている。
男らしい腹筋だ。
だけどウェストのせいで服がキツい。
まあ男のウェストの女物を着ているのだから仕方がない。

 

武藤喜一郎
十月十二日 月曜日
今日は学校を休んだ。
何だか自分の身体が変だからだ。
熱とかは特にないけど、明らかに身体が変化している。
昨日のケツもそうだが、今日は腹筋が衰えていた。
自慢の割れた腹筋がなくなってしまっているのだ。
何だかドンドン変わって行きそうで怖い。
明日も休むかも知れない。

 

桜井祥子
十月十三日 火曜日
これはすごい。
この腕ならどんな力仕事でも出来そうだ。
今までのか細くて頼りない腕が、今では筋肉質で太い腕になっている。
鏡で自分の裸を見ると、かなりアンバランスで笑えた。
肩幅も広くなっていて、同僚に「何か肩幅広くなってない?」と言われた。
このまま会社に行くのはまずいのでしばらく休むことにしよう。
そう言えばしばらく見ていないが武藤君はどうなっているのだろう?

 

武藤喜一郎
十月十三日 火曜日
気持ち悪い。
俺の腕が気持ち悪い程細い。
こんな腕じゃバットも満足に触れそうにない……。
折角ベンチ入り出来たのにこんな身体じゃ落とされてしまう……。
結局今日も休んでしまった。

 

桜井祥子
十月十四日 水曜日
朝起きて、すぐに違和感に気付いた。
身体を起こすと頬に触れる髪の毛の感触がなかった。
慌てて鏡を見ると、そこには坊主頭の私がいた。
しかも、白くてきめ細かかった肌までもが変わり、浅黒い……まるで男性のような肌になっていた。
自分の身体がドンドン男性化していくのが嬉しくて仕方がなかった。

 

武藤喜一郎
十月十四日 水曜日
さっきから髪の毛が鬱陶しい。
朝起きると髪が信じられない程長く延びていた。
肩に髪の毛がかかるなんて初めての経験だ。
それに、肌が恐ろしい程に白くなっていた。
まるで前に見たグラビアアイドルの肌だ。
まさか俺は、女になりつつあるのか……?

 

桜井祥子
十月十五日 木曜日
ここ最近は服がキツいからほぼ全裸で過ごしている。
どうせ人も訪ねて来ないしね。
今日変化したのは足だった。
太くて逞しい男性の足……。
勿論すね毛も生えている。
それともう一つ。
声が変わった。
カップ麺を食べよるためにお湯を注いでいる時、誤って指にお湯がかかってしまった時にいつもの調子で「きゃっ」と声を上げたところ、その声が野太くなっていた。
もう今の私はほとんど男だろう。
残るは大きくて邪魔な胸、それと股間だ。

 

武藤喜一郎
十月十五日 木曜日
もう変化に慣れてしまった。
今日変わったのは足だった。
あんなに太かったのに今では頼りないくらい細い。
こんな足じゃスライディングは不可能だろう。
キャッチャーのブロックで折れてしまうのが関の山だろう。


先生から電話がかかった。
もう長いこと学校を無断欠席しているためだろう。
だけど、先生は俺を武藤喜一郎だと認識してくれなかった。
声が変わっていたからだ。
女性のように甲高い声で喋る俺に、先生は「武藤君のお姉さんですか?」と聞いてきた。
嫌になってすぐに電話を切った。

 

桜井祥子
十月十六日 金曜日
胸がなくなった。
ついに胸が平らになった。
子供の頃、自分の意思に反してドンドン大きくなっていくこの胸に嫌悪感を覚えていた。
動く度に揺れるのが邪魔で仕方がなかった。
人にジッと見られるのが嫌で嫌で仕方がなかった。
もう、その心配はない。
来週には完全に男になれるだろう。
顔つきもかなり喜一郎君に似てきている。

 

武藤喜一郎
十月十六日 金曜日
今までで一番衝撃を受けた変化だった。
朝起きると胸が異常に重かった。
大体予想はついていたけど、信じたくなくて鏡を見た。
そこにはまるで桜井さんのように大きな胸の「女性」がいた。
我ながら綺麗だった。
他の変化に気を取られて気付けなかったけど、よく見ると顔も桜井さんソックリだ。


自分がこうなっているのは桜井さんが関係しているのじゃないかと疑った。

 

桜井祥子
十月十七日 土曜日
初めて、朝勃ちを経験した。
ズボンの股間が大きく膨らんでいた。
慌ててズボンと下着を脱いで鏡に映した。
そこには筋肉質な高校生男子が立っていた。
嬉しくて嬉しくて、「男」の癖に大声で泣いた。

 

武藤喜一郎
十月十七日 土曜日
お父さんお母さんごめんなさい。
よくわからない内に女になりました。

 

 

 

 

 


桜井祥子
十一月五日 木曜日
明日は私が「桜井祥子」になってから初めての出社。
少し緊張するけど、これからは新しい性を受け入れて生きていくしかない。
スカートにはまだ慣れないんだけどね……。

 

武藤喜一郎
十一月五日 木曜日
今日の練習はいつもより一段と厳しかった。
かなり疲れたけど自分でも上手くなっているのが実感出来た。
キャプテンは「お前ならもうすぐレギュラー取れるかもな」と言われた。
すごく嬉しい。
もうすぐまた練習試合があるから、それに向けて頑張りたい。


「武藤喜一郎」になれて本当に良かった。

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